#37 お茶
この小噺は作り話です。
小林賢太郎氏の作品にインスパイアされて書きました。一部のアイデア、固有名詞をそのまま使っています。出典は最後に書いてあります。
けけ氏が朝目覚めてすぐに口にするもの。それは紅茶である。英国人か、と突っ込まれそうであるが、好きなものは好きなのだ。
「んあぁぁ〜。よく寝た〜。さてと、まずはお湯をわかして…」
ベッドから出たけけ氏がまず向かうところはキッチン。やかんにたっぷりとお湯を沸かす。沸騰してから約3分。カルキ臭などを飛ばす。紅茶を淹れるには沸騰した100度のお湯がもっとも適しているらしい。
お湯が沸くまでの間、食器棚からカップとソーサーを選ぶ。けけ氏の食器棚には色とりどりのカップとソーサーが見事に収納されている。けけ氏がヨーロッパで働いていた時*に買い集めたコレクションだ。ノリタケなどの日本ブランドに加えてウエッジウッド、マイセン、リチャード・ジノリ…ヨーロッパの名だたるブランドも揃っている。
「ヨーロッパに住んでた時はずいぶんと紅茶にハマっていたからなぁ。結構な数のカップを買い漁ってしまったよ…」
などと言いながらお気に入りのカップを選ぶ。今朝はノリノリでノリタケを選んだ。
「♪お皿はノリタケ非売品〜♪ 」
歌いながらうーんと考え込んでしまったけけ氏。
「なんなんだっけこの歌??ああ、そうだった。この間泊まったなんとか閣ホテルのロビーでずっと流れてたやつだ。一日中流しやがって。おかげでフルコーラス歌えるようになっちまったじゃないか」
お湯が沸いた。ポットに茶葉とお湯を入れて待つこと3分。
「えーっと、今日はどの3分計を使おうかな」
コント仲間に3分間喋らせて〇〇3分計というコントを作ったことがあるけけ氏。自身のものも含めると4パターンある。お茶を淹れたりカップ麺を作ったりする時に重宝している。
「じゃぁ今日はこいつで……と」
コント仲間の軽快なおしゃべりを聴いていると3分なんてあっという間だ。ティーポットからお茶をカップに注ぐ。
「うーーん、今朝もいい香りだ」
と、そこへ電話がかかってきた。朝っぱらからどこのどいつだ、とケータイを見るとお茶彦からの着信だった。
「あ、もしもしぃ〜。おはよう。オレだよオレ」
「お茶彦か、おはよう」
「そのお茶彦ってやつやめろよな」
「なんで?いいじゃん。お前にぴったりじゃねーか」
「お茶彦て………」
彼は古くからの友人で、もちろんお茶彦は本名ではない。漫画家なのだがやたらとお茶に詳しいのでけけ氏が勝手にお茶彦と呼んでいる。東京産の紅茶があることを教えてくれたのも彼だ。どうも相手は気に入ってないようだがそんなことお構いなしのけけ氏。自分のネーミングセンスを微塵も疑っていない。
「で何か用なの?」
「あ、そうそう。いい茶葉が手に入ったんで一緒にお茶でもと思ってさ」
「ほら、やっぱお前はお茶彦だよ。ぜひ飲みたいから持ってきてよ!」
「今からお前んち行くわ」
お茶彦が持ってきたお茶はフランスのFAUCHONのラプサン・スーチョン・ティーだった。
「また変わった名前の紅茶だな。攻めてくるなぁ」
「コイツはクセになるぞ〜」
そう言いながらそそくさとお茶を淹れる準備をするお茶彦。お皿はノリタケ非売品〜♪などと鼻歌を歌っている。
「なに、お前もあのホテル泊まったことあんのか?」
「あるある。先月ちょっと缶詰になってね。アメニティをかっぱらってまんまと逃げてやったけど、この曲が頭から離れなくてさ。困ったもんだぜ」
「なぁ。ロビーで芸者と称するベルボーイが踊ってるし、お風呂は温水プールだし。いったいなんなんだあのホテル」
「コンシェルジュも踊るらしいぜ」
などと話しているうちにお茶の用意が整った。一口飲んでみる。
「んんん?なんじゃこりゃ?紅茶の燻製か?はたまた正露丸風味のお茶か?」
「おいおい、ひどいな。これはれっきとしたフレーバーティーだぜ。このスモーキーな香りが分からんかねぇ」
「ま、確かにクセになる味ではあるな。うん、おかわり」
けけ氏、このお茶が気に入ったようだ。
「ところで、ちょっと教えてほしいことがあるんだが…」
「お茶に関することなならなんだって聞いてくれていいぜ」
「お茶彦、頼りになるな。…………で、女子っぽくお茶を飲むのってどうしたらいいと思う?」
「はぁ?」
「いやね、今度のお芝居で劇中劇をやるシーンがあってな。紅茶を飲む母親って役どころなんだけど、どうやったら女子っぽく見えるかと考えててさ」
「そうだな。まず、左手でソーサーを持つ。右手でカップを持ち、小指を立ててみ。足は必ず揃える。これだけでずいぶん女子っぽくなるぜ」
「おお、こうか?」
「緑茶の時は茶托を左手に持って、右手で優雅に蓋を取るんだ。お茶菓子を食べる時も、フォークを持つ手の小指は立てておくんだぜ」
「なるほどねぇ。メモメモ…と。さすが漫画家の先生はなんでもご存知だ。助かったよ」
「今度は珍しいコーヒーでも持ってくるよ。ゲイシャコーヒーなんてどうだ?」
「またあのホテルか?踊る芸者のコーヒーかなんかか?」
「ちげーよ。コーヒー豆の種類がゲイシャってんだ」
「何でもよく知ってるなぁ」
「お前ほどじゃねーよ」
お茶彦のおかげでいい芝居が出来そうだ。早速練習しないとな。練習ついでにあいつが置いていった茶葉でもういっぱいお茶を淹れるか…。
けけ氏のいつもの1日が始まる。
* #35けけ氏は先生がお好き、参照
出典
CLASSIC 帝王閣ホテル応援歌
カジャラジオのコント
SymmetryS Record of Records
カジャラ#1 しあわせ保険バランス
CLASSIC マリコマリオ
CLASSIC ベルボーイのホテル旅館化計画
KKP#5 TAKEOFF
Potsunen 男のゲーム