#9 ツボ
この小噺はつくり話です。
小林賢太郎氏の作品にインスパイアされて書きました。一部のアイデア、固有名詞をそのまま使っています。出典は最後に書いてあります。
「あぁ、考えがまとまらねぇー」
寝癖のついた髪の毛をクシャクシャにしながらけけ氏はため息をついた。昨日から原稿用紙が1文字も埋まっていない。全く筆が進んでいない。進むのは筆ではないな、鉛筆か。そもそも鉛筆が勝手に進んでいくか?あぁ、また余計なことを…。
近くに置いてあるお菓子の入っている壺に手を伸ばす。中にはけけ氏お気に入りのブルボンのラインナップ。糖分を補給して脳みそをフル回転させるって寸法だが、果たして…。
………ダメだ。原稿用紙は埋まらないから漫画にしよう。カリカリカリ。
ーウサギとネコとイヌとツボの話。
ーウサギがつぼやという蕎麦屋でバイトする話
うーん。どれも何だかなぁ…。わけがわからなさすぎる。
後にこれらのストーリーは見事に漫画として発表されることになるのだが、それはまた別のお話。とにかく今のけけ氏の頭の中はカオス状態なのである。
「出かけるか」
そう、こんな風に考えがまとまらない時には散歩に出るにかぎる。けけ氏はいつもこうして散歩に出るのだ。いつものコース。慣れた道なら考えごとをしていても「道ワープ」にならずに済む。北風がけけ氏の頬を撫でていく。サザンカの花も心なしか寒そうだ。
骨董屋の前を通る。
「おや?こんなポスター 貼ってあったか?」
ヒトツボ王国の王様お買い上げの壺という文句と赤い壺の写真。ほぉ…外国からの客も来るようになったのか、たいしたものである。
ショーウィンドウにはいつもの壺。陽の当たり方によって赤く見えたり黒く見えたりする、黒光りする赤い壺である。他のものよりひときわ高いところに飾られていて、さながら「私を見て!」と言わんばかりだ。「ひみつぼ」という名前も気になる。値段もそこそこだ。買えなくもない。気になる。でも、ここで買ったら主人の思うツボではないか。そう簡単に買ってたまるか!けけ氏しばし自分と格闘。
「でもな、なんか壺って心惹かれるんだよな。なんでだろう。壺漬けカルビとかも大好きだし。つぼ漬けってお漬物も好きだ。それに壺って漢字のどこがいいって、シンメトリーなんだよ。裏から見ても同じに見えるんだよな。あぁ、壺ってツボだわぁ…」
ふとショーウィンドウの奥に目をやると骨董屋の主人が何やら値段を書き換えている。この壺の値段はしょっちゅう変えられていて、確か今は110,800円だったはず。
「え?ウソだろ…」
なんと壺の値段は1,010,800円になっているではないか。骨董屋の主人に何があったんだ!!これじゃあ買えるはずもない。諦めがついたのかけけ氏はさっさとその場を離れた。
「散歩をして体もあったまったことだし、もう少し体を動かすか」
けけ氏は友人に電話をかけた。けけ氏はこのところキャッチボールにハマっている。さすがにこのスポーツはひとりではできないのでこうして友人に来てもらっている。けけ氏がハマるキャッチボールだ。そんじょそこらのキャッチボールとはわけが違う。ボールは使うがグローブは使わない。その代わりに壺を使う。
壺??手やグローブでボールをキャッチするかわりに、壺でボールを受けるのだ。通称「壺馬鹿」。ボールが入るたび面白い音がして、なかなか楽しい。けけ氏が好きな壺を使うというところも気に入った理由のひとつだ。この壺馬鹿用の壺を集めるのも今やけけ氏の趣味のひとつになってしまった。骨董屋に足を運ぶのも気に入った壺を探すためなのだった。
しばし壺馬鹿に熱中するけけ氏。スポーツをすると頭の中が空っぽになる。そうすると色んなアイデアが浮かんでくる。ようやく何やらいいモノが作れそうな予感がしてきた。
「そうか!自分が壺になるっていうのも面白そうだな。顔と壺を合成して、壺に『思うツボ』なことをしゃべらせる。お、いいぞいいぞ。まてよ、この壺馬鹿の話を書いてもいいな」
やっぱりあの壺、買おうかな。100万円はさすがに高いか…。うーん。
出典
KAJALLA #2 毒と鍛冶屋ら
Hana-Usagi第1巻 ニニコの壺
Hana-Usagi第1巻 つぼや
The SPOT 大きなお土産
こばなしけんたろう ひみつぼ
鯨 壺バカ
KKTV#3 思う壺