#18 怪獣 其ノ一
この小噺はつくり話です。
小林賢太郎氏の作品にインスパイアされて書きました。一部のアイデア、固有名詞をそのまま使っています。出典は最後に書いてあります。
けけ氏が暮らすこの世界。平和である。何か面白いものをこしらえては発表する、そんな場所があり人が集まってくれる。今日もどこかで誰かがけけ氏が創ったものを楽しんでいてくれる。平和でなければこうはいかない。ありがたいことだ。
今では想像もできないが、以前はいたるところに怪獣が出没していたらしい。地球防衛隊なるものが結成され、日ごと姿を現す怪獣たちと戦っていたそうだ。けけ氏は彼らの活躍を描いたお芝居に出演したこともあった*。
近年怪獣はなりをひそめ、暴れることはなくなってきた。もはや人間に勝ち目はないと諦めたのだろうか。存在はしているのだが、大っぴらに人間世界のテリトリーにやってくることはなくなっていた。
今や世界中にどんな怪獣が生息しているのだろうか。中には怪獣を『神』と崇め奉っている民族もあるという。大規模な調査がなされ、何頭かの怪獣とコンタクトを取ることができた。優秀な言語学者や民俗学者たちからなる調査隊に協力を仰ぎ、コミュニケーションを図る。なんとか意思疎通はできそうだ。聞きたいことは山ほどある。
怪獣にインタビューをしたら面白いんじゃないか。政府の誰かがそんなことを言い出した。
「全く、お役人てやつは真面目なんだかふざけてんだか…」
ある日けけ氏のもとに手紙が届いた。官邸からである。桐花紋が入った仰々しい封筒に入っている。丁寧に折りたたまれた上質な紙を広げて中味を読む。
「私に怪獣へのインタビュアーをやれだって?んなことできんのか?内容は?なに、現場で判断して事後承諾だぁ?いかにもお役人の考えそうなことだな」
ぶつぶつ文句を言いながらも、やってやれねえことはねえよなと、どんなことを聞いてやろうかと考え始めたけけ氏だった。
このインタビューの模様は『けけ氏のアトリエ』という番組として国営放送にて放送されるらしい。怪獣の生息地に巨大なけけ氏のアトリエのセットを組み、そこに怪獣をゲストとして招く。こんな番組どこかで見たことが……。『〇〇子の部屋』みたいじゃねーか、国家レベルでのパクリかよ、とけけ氏。しかし、ここまできたらやるしかない。腹をくくるしかなさそうだ。
それでは『けけ氏のアトリエ』の放送内容をお伝えしよう。(国家レベルでのパクリもなんのその。番組は無事放送された)
3月2日放送『けけ氏のアトリエ』より
けけ氏「今日は亀彦とメカ彦さんの2頭に来ていただきました。ありがとうございます。おふたりと言った方がいいのかな」
亀彦&メカ彦「どーもー。オイラたちふたりで出てることが多いので、一緒に呼んでくださってありがとうございますっす」
け「(ふたりって言ったな、ふたりでいいんだな) おふたりの誕生の経緯は?」
亀「アナグラムっすよ。『コーヒーメーカー』のアナグラムから生まれたっすよ。台所用品でアナグラムをすると、オイラみたいな怪獣が生まれちまうから、気をつけた方がいいっすよ」
メカ「オイラは亀彦のカメをひっくり返してメカ彦。割と安直につくられたっす」
け「なるほど。ロボットみたいでカッコいいですよ」
メカ「ありがとうございますっす。今じゃ時々コーヒーメーカーに戻って、美味しいコーヒーを淹れてるっす。出張サービスもするっすよ」
け「デリバリーも?僕はコーヒーが好きだから、今度作ってくれるとうれしいなぁ」
亀、メカ「いいっすよー」
け「じゃ、僕の森のアトリエに招待しますね」
亀、メカ「行くっすーーー」
亀彦とメカ彦兄弟はとても気の良いふたり(?)であった。コーヒー好きのけけ氏となら仲良くなれるだろう。
「怪獣も悪くないな。というかやっぱりオレ、怪獣、好きだわ」
けけ氏、満足そうである。さてさて、次の怪獣は?今のうちに資料に目を通しておいた方がいいかな、と例のマグに入ったコーヒーを口にするけけ氏。亀メカ兄弟のコーヒーが飲めるのはいつになるだろう。デリバリーもあるって言ってたっけ。頼んでみるか。
3月3日放送『けけ氏のアトリエ』より
けけ氏「今日のゲストはムゴンさんです。よろしくお願いします」
ムゴン「…………………」
け「えーっと、ムゴンさんはどこで生まれたんですか?」
ム「……………………」
け「今のお住まいは?」
ム「……………………」
け「無口なんですね」
ム「……………………」
け「お好きな食べ物は?」
ム「バリバリバリ」
け「ちょっ…マイクは食べないでください!!」
ム「……………………」
け「えーっと、マイクがなくなってしまいましたので、インタビューはこれでおしまいにします。ありがとうございました」
ム「……………………」
け「……………………」
怪獣ムゴンは一言も喋らなかった。そりゃそうである。無言である。だからムゴンというのだ。誰も気づかなかったのか?そもそもインタビューする意味あったか?今さらそんなこと言っても仕方がないが、不思議なことに放送後にクレームの電話がかかってくることはなかった。ムゴン、実は見た目が可愛いのである。『バえる』ということでインスタでの人気が急上昇らしい。インタビューした意味はちゃんとあった。ほっとするけけ氏であった。
「サインもらったからインスタにあげてみるかな。これはバえるぞー。#ムゴンでいいのかな?」
けけ氏、インスタのアカウントもちゃんと持っている。
* #2なんとか彦 参照
to be continued
出典
カジャラ#4 怪獣たちの宴
TAKEOFF
KKTV#3 ムゴン