#25 カモノハシ 其ノ一
この小噺はつくり話です。
小林賢太郎氏の作品にインスパイアされて書きました。一部のアイデア、固有名詞をそのまま使っています。出典は最後に書いてあります。
こんな夢を見た。
<第一夜>
目が覚めると波の音がしていた。あれ、おかしいな、海なんて近くにないのに。ベッドから身を起こして窓の外に目をやると、そこにはキラキラと輝く水面が広がっていた。朝日を浴びて眩しく輝く海である。おかしい。たしか、オレのアトリエは森の中にあったはずだ。鳥やフクロウの声が聞こえてくることはあっても、波の音がするはずがない。ははーん、これは夢だな。よし、面白いからしばらくは目を覚まさずにいよう。けけ氏はしばし夢の国の住人となることにした。
天気がいいので外を散歩することにした。昨日は雨が降っていたのか、道路が濡れている。ん?あちこちになにやら動物のようなものが転がっている。イヌやネコではない。あぁ、これが「カタギリ」か。雨上がりに道端で死んでいるというやつ。なるほど。けけ氏は棒で突っつきながらしばらくカタギリを観察する。今まで話には聞いていたけれど実物は見たことがなかったけけ氏。興味津々である。
「お兄さん、カタギリに興味あんの?うちの店でも売ってるぜ?」
近くを通りがかった丸メガネの男が声をかけてきた。
「カタギリって売ってるんですか?」
「ああ、うちでは『モモイロヒメカタギリ』をあつかってるんだ。小さくて飼いやすいってな、評判いいぜ」
「はぁ…」
カタギリって家で飼えるのか?知らなかった。でもまぁ、飼うとなると3日以上家を空けられないし、世話をするのも億劫なので返事もそこそこにその場を立ち去った。
ずしーん、ずしーん、と遠くから地響きが聞こえてきた。今度はなんだ?人々が口ぐちに「カタギリがでたぞー!」と叫びながら建物に入って行く。茫然としているけけ氏の手を誰かが引っ張ってくれた。
「早く早く!中にいないと危ないわよ」
足音がさらに大きくなる。皆、息を潜めてカタギリが通り過ぎるのを待った。遠ざかる足音。ふぅ〜っと息を吐き外へ出て行く人々。
「あれ、なんですか?」
さっき助けてくれた女性に訊ねた。
「『コモドオオカタギリ』よ。世界最大のカタギリって言われてる。ま、なにもしないけど、踏んづけられたらひとたまりもないわよ」
「70メートルはありますね」
「呑気なこと言ってないで、気をつけなさいよ」
女性はけけ氏の方をポンっと叩いて行ってしまった。
本屋にはカタギリに関する本がたくさん置いてあった。北海道に生息する『エゾカタギリ』の写真集。『現代片桐概論』『マンガ版 現代片桐概論』なんていう本まであった。パラパラとページをめくる。カタギリは人類というよりはカモノハシに近いのでは、なんてことが書かれていた。どれも面白そうなのでけけ氏は買ってみることにした。あれ??お財布がないぞ。おっかしいな……………………………
………………………………目が覚めた。
カタギリという架空の動物か。カモノハシの仲間だって?これをネタにコントを書いてみるのも面白いかもしれない。夢ネタってけっこう使えるんだよな。
To be continued
出典
零の箱式 現代片桐概論