Mr.KK’s untold stories. 〜けけ氏は甲殻類がお好き〜

#24 甲殻類

 

この小噺はつくり話です。

小林賢太郎氏の作品にインスパイアされて書きました。一部のアイデア、固有名詞をそのまま使っています。出典は最後に書いてあります。

 

 甲殻類って好きだという人は多い。エビにせよカニにせよ、いろんな食べ方ができて年代を問わずファンが多い。生で食べるのはもちろん美味しいし、焼いても茹でても、どんな風に調理してもまずハズレはない。かなり優秀な食材である。中でもけけ氏のお気に入りはタラバガニである。あの太い足の部分にガブっとかぶりつく瞬間は至福の時である。大きなものになると直径は3センチくらいにもなり、かなり食べごたえがある。

 大学で客員教授をしている幼なじみの友人とカニを食べに行ったけけ氏。今日もタラバガニを注文してホクホク顔である。焼きタラバを注文して今か今かと待っているところだ。友人はズワイガニを注文しているようだ。

 注文したメニューが届いた。カニを食べる時人は無口になるというが、どうもこの2人にはあてはまらないようで…。

「やっぱり冬はカニだよな」

カニってうまいんだけど殻を剥くのが面倒なんだよねー」

「そうそう。手も汚れるし。だれか『タラバガニむいちゃいました』っての作ってくんねーかな。タラバに目がないんだよ、オレ」

「でもさ、お前カニ好きな割にはカニ食ってねーじゃん」

「は?」

「あのさ、ヤドカリっているじゃん」

「ない」

「いやいや、ヤドカリはいんのよ」

「ごめんごめん、知ってる」

「でね、タラバガニってヤドカリの仲間なんだぜ。だからお前が今、食ってるヤツはヤドカリってわけ」

「………マジか…」

タラバガニは生物学上はヤドカリの仲間らしい。ならば、とその友人は大学でタラバガニの代わりにヤドカリでクリームコロッケを作ったらうまいのではないかと、実験をしたことがあるらしい。ヤドカリをどんだけ集めたらクリームコロッケがつくれるのか。大学の先生ってそんなに暇なのか?ていうか、彼はなにを教えているんだ?

「で、味はどうなの?ヤドカリクリームコロッケって」

「生臭くて食えたもんじゃなかったよ。次はヤドカリ雑炊にも挑戦しようかと」

「チャレンジャーだな。じゃあさ、ザリガニはどうなのよ?あれ、食えるの?」

「そうだそうだ、ザリガニといえばさ…」

 

 ここで2人は学生時代の思い出話に花を咲かせた。何年か前のことだ。けけ氏の友人はお年玉くじでオマール海老が当たったことがあった。木箱に入ったオマール海老が届き、それをどうさばいたらいいものかとけけ氏を呼びつけたのだった。

「ちょっとコレ見て欲しいんだけど」

「え、なに?ザリガニじゃね?でっけーな、おい」

「ザリガニじゃねーよ。よく見ろよ。オマール海老だよ」

「はぁ??こいつ海老なの?伊勢海老とは違うのか?」

「よく見ろよ。ハサミがあるだろ」

「ない」

「いや、そこはあんのよ。見えるじゃん」

「じゃやっぱりザリガニじゃん」

「だから違うって言ってるだろっ」

けけ氏は生まれて初めてオマール海老を見た。だいたい木箱にはいってる海老なんて、そうそう見られるものではないし、ましてやオマール海老なんてハイカラな海老など学生が知っているはずもない。てっきり友人のいたずらだと思ったけけ氏だった。

「あの時のお前さ、オマール海老をでかいザリガニだなんて言ってさ」

「覚えてねーよ、そんなこと」

「オマール海老とザリガニっておんなじ形してんのにさ、オマール海老のほうは高級フレンチなんかに使われるけど、ザリガニってなんか貧乏臭くね?」

「確かになぁ。ザリガニってドブに住んでるからじゃない?高級感まるでナシ」

チータラとかひもに結びつけて釣るんだよね。授業でやったことある。あー、やっぱり高級感ないわぁ」

「そうそう。チータラで釣りあげてバケツに入れようとすると、すっげー抵抗してハサミではさんでくるんだよね」

「俺もはさまれたことある。ちっさいくせに痛いんだよなー。ハサミーマンかよ。アイツ、いつか絶対食ってやる」

「今度はなに?茹でてバターソースで食うってのか?ロブスターじゃあるまいし」

「大学の先生なめんなよー。サソリだって唐揚げにすると美味いらしいぞ」

ヤドカリもザリガニもサソリもこの友人には食材に見えるらしい。食糧不足解消のために良い研究をしてもらいたいものだ。それにしても一体この人は大学でなにを教えているんだろう?

 

「あぁ、美味かった〜。なぁ今から時間ってある?せっかく出てきたんだし映画でも観ていかないか?」

けけ氏は友人を映画に誘った。先週から公開されているSF映画が気になっていたのだ。

「ああ、いいけど。どうせまたなんとか星人が出てくるSFなんだろ?お前も好きだよなー」

「まあまあ。今度のは絶対面白いって!『ハサミーマン vs バルタン星人』うー、ワクワクしてきた」

「しょうがないな、付き合ってやるよ」

けけ氏の怪獣好きとなんとか星人好きは友人も承知している。

 

果たして、ハサミーマンって怪獣なのか?宇宙人なのか?映画を観れば分かる………のか?

 

出典

CLASSIC  スーパージョッキー

DROP  コミヤヤマ

ALICE  甲殻類のワルツ

KKTV#8  wonderland

KAJALLA#3  オマール海老