#30 ドア
この小噺はつくり話です。
小林賢太郎氏の作品にインスパイアされて書きました。一部のアイデア、固有名詞をそのまま使っています。出典は最後に書いてあります。
このドアの向こうには何があるんだろう。いつも見慣れたこのドアは実はのアニメキャラのひみつ道具で、開けると知らない世界が広がっているのかもしれない。知らない世界どころか、この世ではない世界につながっているのかも。左右、裏表がさかさまになっている世界、パラレルワールドか…。
数あるけけ氏の好きなものの中で、1、2位を争うのがドアである。
一口にドアと言ってもいろんなデザインがあり、いろんな機能がある。建物に出入りするためのドア、中に入るというよりはモノを出し入れするためのドア。建物ではなく乗り物についているドアは、開けて乗り込めばどこかへ連れて行ってくれる。どんなに小さな戸棚やタンスにだってドアはついている。引いたり押したりして開けるもの、スライドさせて開けるもの。デザインだって数え切れないほどある。この世からドアが消えてしまったら、目の前の風景はずいぶんと味気ないものになってしまうに違いない。
だから目の前にドアがあると、けけ氏は想像せずにはいられなくなる。子どもの頃からずっとそうだった。ドアを開ける前には目をつぶってドアの向こうを想像する。このドアを開けると地下神殿のような空間が広がっていて、足音がカツーーンと響くんだ。ボクは足音がしないようにそーっと歩くんだ。そーっと、そーっと。そして深呼吸をひとつしてドアを開けようとノブを引いてみる。が、開かない。どれだけ力いっぱい引いても開かない。んおおお〜〜〜。あ、押すのか。あっさり開いた。だが、何も起こらない。ドアはただのドアである。物語は始まらない。
目の前に現実を突きつけられてもけけ氏はひるまない。結果がどうであれ、想像すること自体が楽しいのだから。このドアの形状からすると、きっとこの先は宇宙ステーションだな。金属の質感が宇宙っぽい。NASA、さすがだな。この重いかんぬきがかけてある重厚なドアは中世のお城かなんかにありそうだな。幽霊屋敷かもしれない。こんなふうにけけ氏の想像はどこまでも広がっていく。
今でもけけ氏はドアが好きである。出かけた先でステキなデザインのドアを見つけると、しばしドアの前にたたずみ物語の主人公になる。その癖はまだ抜けずにいる。先日はドアではなくシャッターに一目惚れしてしまい、小一時間ほどをその場で過ごしてしまった。古びた感じがなんとも言えずいい味を出していたシャッター。ちょっと落書きなんかもしてあって見ていて飽きない。こんなシャッターが地下にいっぱいあって、開けても開けてもどこへも辿り着けないとしたら?指紋認証や網膜スキャンが必要なドアもあり、気が抜けないぞ。これじゃまるでスパイ屋敷みたいじゃないか。自分の任務はなんだったろうか?赤外線センサーをーくぐり抜けて何かを盗み出すんだったか?敵から逃げているんだったかと、気分はもう007(ダブルオーセブン)かミッション・インポッシブル(ショインポ)だ。
雑貨屋のお洒落なドアにも釘付けになった。こんなドアが図書館にあったらステキだな。本を探しにドアを開ければまたドア。どこまで行けばお目当ての本が見つかるんだ?次々と現れるドアを開けて本の森へ入り込んでいく。そして最後のドアのノブを握り、押してみるが開かない。ならば、と引いても開かない。またかよ。どうなってるんだ。鍵がかかっているのか。ええ?横にスライドぉ??こんな変なドアあるか???………ここにあるけど。
「すみません、もう閉店時間なんですけどぉ…」と店員に声をかけられ、けけ氏は慌ててその場を離れた。
いつもこんな具合だ。ドアを見ると想像せずにはいられない。頭の中で勝手にストーリーが進んでしまう。もはや職業病と言っても差し支えないだろう。だからけけ氏のアトリエのドアはびっくりするほど素っ気ない。凝ったデザインも何もない。シンプル イズ ザ ベスト。そうでないと毎日ドアに向かって物語を作り続けてしまう。想像力をかき立てない極めてシンプルなドアを、木でなんでも作ってくれる腕のいい知り合いの大工にわざわざ注文して作ってもらったのだ。
たかがドアと侮ることなかれ。ひみつ道具などなくても、ドアが一枚あればどこへでも行けてしまうのだから。
出典
KKTV#9 シマヤマヤマシの事件簿
maru footsteps
P+ んあえお
ポツネン氏の奇妙で平凡な日々
鯨 器用で不器用な男と不器用で器用な男の話
P+ 図書館
KKTV#4 まやかしの画廊
カジャラジオのコント6 レンタルビデオ店
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