Mr.KK’s untold stories.〜けけ氏はマチコがお好き〜.

#6 マチコ

 

この小噺はつくり話です。

小林賢太郎氏の作品にインスパイアされて書きました。一部のアイデア、固有名詞をそのまま使っています。出典は最後に書いてあります。

 

 けけ氏は既婚者。ステキな奥様がいる。今日はけけ氏にゆかりのある女性についての小噺。

 

 今日は北風が強い。外に出るのはよそうとけけ氏はアトリエにこもっている。(決して立てこもっているのではない)そばにはお気に入りのマグにたっぷりと注がれたコーヒー。天狗のような鼻を持つウサギが描かれている。このところのけけ氏のお気に入りのマグだ。どこかの通販で購入したのだが、人気商品ですぐに完売したとか。早めに注文しておいてよかったな…。ひとりごちるけけ氏。

 コーヒー片手に誰もいないアトリエでひとり静かに考えを巡らせる。彼にとって至福の時間である。おや、近くの公園から子どもたちの声が聞こえてくる。縄跳びで遊んでいるようだ。懐かしいな。けけ氏も子どもの頃近所の子どもたちと縄跳びに興じたものだった。隣に住んでいたマチコちゃんは、大縄が得意だった。どんなに早く回してもスッと縄に入ってくる。軽やかなステップを今でもはっきりと覚えている。

「マチコちゃん、お入んなさい」

「思う存分おやりなさい」

「目の色変えておやりなさい」

楽しい思い出である。あの時のマチコちゃん、今はどこでどうしているのか…。

 

 けけ氏は若い頃友人と作った会社で仕事をしていた。美術の学校を出て作った小さな会社で、朝から晩まで仕事に追われていたけれど、友人が面白いやつだったのでそれなりに楽しく働くことができた。小さな娘さんがいた彼、とにかく娘には甘かった。なのでしょっちゅう娘さんから電話がかかってきていた。

「マ〜チコちゃんで〜しゅかぁ〜」

絵に描いたような親バカ、いやバカな親か。仕事のため休日にどこへも連れて行ってあげられないことを娘さんに責められてタジタジになったいたっけなぁ。マチコちゃん、今はいくつになったんだろう。

 

 こんな風にマチコという名の女性に縁があるけけ氏。実は奥様の名前もマチコという。デザイン会社を辞めて広告代理店に勤めていたときに出会った女性である。けけ氏と同じく美大を出ているため話が合い、そのまま結婚にいたったのだった。だが、会社で初めて会ったというわけではない。実は彼女は中学の同級生。

 そしてけけ氏の初恋の相手でもある。図書館の前で雨宿りをしていたマチコさんに、手にしていた傘を貸してあげたけけ氏。自分は折りたたみを持っているからと小さなウソをつき、自分はずぶ濡れで帰ったのだ。今でも胸がキュンとなる思い出である。

 絵本が好きな彼女の影響で、けけ氏自身も絵本や絵に興味を持ち、それが美大進学につながったのだった。いわば、今のけけ氏をつくってくれた恩人である。

 

 思い出にひたっているところへリーンと電話が鳴った。けけ氏のアトリエの電話は黒電話。リーンリーンと鳴る。ガチャリ。

「あー、ハロー!ミーだ。三田村(さんだーそん)だ」

「あぁ、三田村(みたむら)のおじさん、おひさしぶりです。日本に帰って来られたんですか?」

 三田村の叔父はもうずいぶん長いことアメリカで暮らしており、三田村をサンダーソンと名乗るほどアメリカナイズされた人だった。安田村はアンダーソン、荒木さんはアレキサンダーという具合。いつもスタバのコーヒーを持ち歩いていて、アメリカのファミリードラマに出てくるような典型的なヤンキーと言えばわかりやすいか。娘さんの学校このとがあり、帰国することになったらしい。

「マチコちゃんもお元気ですか?もう長いこと会ってないなぁ」

「そうだな、マチコはアメリカ生まれだし、ほんの数回しか日本に帰ってないからな」

姪のマチコが帰国か。けけ氏の周りにまたひとりマチコが増える。だが大丈夫。みんな漢字は違っているから間違えることはないだろう。

 

真知子

万智子

眞智子

Machiko(アメリカ生まれのため英字表記)

 

 たくさんのマチコがいるものだ。そうだ、これをネタに何か面白い話が作れないものか。コーヒーのおかわりを作りながらけけ氏は考えた。

 

 こんな寒い日にはアトリエで物語をこしらえるのが何よりも楽しい。おや、雪が降ってきた。雪か…。白はマチコのイメージカラーだよな。積もってくれるといいな…。

 

出典

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