#7 トモコ
この小噺はつくり話です。
小林賢太郎氏の作品にインスパイアされて書きました。一部のアイデア、固有名詞をそのまま使っています。出典は最後に書いてあります。
今の時代には珍しくなった○○子という名前。昭和の時代には一世を風靡しており、クラスの大半がなんとか子ちゃんだった。数いたなんとか子ちゃんの中でも特に記憶に残っているのが、前出のマチコと今回の主人公のトモコである。けけ氏を語る上で外せないマチコとトモコ。今日はトモコに関する小噺。
けけ氏は中学の時の同級生と結婚している。社会人になって偶然再会し、お互い美術の学校を出ていたこともあり意気投合して結婚にいたったのだった。そのマチコと出会う前にけけ氏はトモコという名の女性とお付き合いをしていた。大学生の頃である。
肩までかかるストレートヘアを無造作に束ね、メイクはしているのかどうかわからないほど。カラカラと大きな声で笑うトモコの周りにはいつも友人が絶えなかった。たまたま同じカルトンを担ぎバスに乗り合わせたのが縁で話をするようになった。
「へぇ、けけくんはひとりっ子なんだぁ。私の実家には両親と弟とおじいちゃんがいるのよ。毎日なんだか賑やかでさぁ。うるさいったらないの。やんなっちゃう」
「ふうん。でも、楽しそうでいいな」
「今は一人暮らしよ。けどさ、トモコも母さんに会いたがってるんだろう、お盆には帰ってこいだのなんだの父がうるさくって」
「いやぁ、うらやましいな」
こんな日々が続くうちになんとなくお付き合いが始まったというわけ。学科が違ったのでキャンパスで会うことは少なかったが、同じバスを使うのでバスに乗っているのがデートみたいなものだった。
穏やかに時間が過ぎやがて夏休みがやってきた。トモコは実家へ帰省した。
「ダライラマー。あ、間違えた。ただいまー」
「あら、トモコ、お帰りなさい。そうそう、あとで父さんが話があるって」
「え、なに?またお見合いの話?」
実はトモコ、今でこそけけ氏という至極まっとうな男性とお付き合いをしているが、これまで何人もの変わった男性を両親に紹介してきたのだった。合コンに行っては彼を家に連れてくる。全裸でカニを抜いている人だったり、上着の袖からタコとウマが出ている人だったり、果てはカッパが来たこともあった。
「トモコ、お前のいう合コンというのはどういう会なんだ!」
「…」
「トモコ、なんとか言ったらどうなんだ」
こんな具合に父親を悩ませていたのだった。それならばいっそのことお見合いさせてしまえば、ということで父親がお見合い話を持ってきたらしい。
「この人なんか、父さんいいと思うんだけどな」
写真を見せられたトモコ。目が釘付けになった。
「木、なの?」
「かなり木だね」
「すて木…」
それからだった。夏休みが終わってもいつものバス停にトモコが現れなくなったのは。
「トモコ、今日も来ていないな。電話もつながらないし…」
けけ氏と同じカルトンを担ぐ女性を探しても見つからない。けけ氏は1人で大学に通い続けた。しばらくしてけけ氏のもとに手紙が届いた。トモコからだ。
…急に会えなくなってごめんなさい。両親と祖父を安心させるためにお見合いすることになったの。おそらくそのまま結婚することになるかも…などということがまるっこい字で書かれていた。
「そっか…。トモコもいい女なんだよなぁ。でも、幸せになってくれるならそれでいいや」
けけ氏、案外ジェントルマンである。自分の幸せより他人の幸せを願うことができる大人である。大丈夫。出会いは他にもあるさ…。
人生には別れも出会いもつきものである。トモコとの唐突な別れを経て、今ではけけ氏はマチコと出会い幸せな人生を送っている。風の便りにトモコにはマサルという息子がいるということを聞いた。
「幸せに暮らしているんだな、トモコ。よかった…」
就職浪人だったマサルくんは引きこもっているらしい、という噂を聞いたのはしばらくしてからのことであった…。
出典
鯨 ことわざ仙人
Thé SPOT アナグラムのあなぐら
零の箱式 片桐教習所
カジャラ#4 在宅超人スエットマン
(ママはトモコであるとは言ってないが、GBLでトモコの息子がマサルだったので。ご想像にお任せします)