#14 ロボット、あるいはウィーンガシャン、ウィーンガッシャーン…
この小噺はつくり話です。
小林賢太郎氏の作品にインスパイアされて書きました。一部のアイデア、固有名詞をそのまま使っています。出典は最後に書いてあります。
子どもの頃に男子の間で流行ったおもちゃがある。何台かのクルマが変形して合体すると大きなロボットになる、というもの。テレビでアニメを放送しており、クリスマスの季節が近くなると、おもちゃとして売り出される。何しろカッコいいのだ。クルマがあっという間に変形していくところもカッコいいし、合体してロボットになるシーンは子ども心に美しいとさえ思えた。
ウィーン、ガシャンッ。ウィーンウィーン、グゴゴゴゴ………ガッシャーン。ドーーーーッン
…欲しい。
この手で合体させてみたい。クラスメイトの何人かはもうすでに持っていた。
ところが、である。けけ氏の両親はそのようなおもちゃをけけ氏には与えなかった。子どものおもちゃにしてはあまりにも高価であるし、流行りのものならすぐに飽きてしまうであろうとの予測のもと、けけ氏に合体ロボットが与えられることはなかった。
ないんだったら作ればいいんだ。
子どもにとっての創作のための最高の素材は家庭から出る空き箱である。特にお中元とかお歳暮なんかでもらうハムなどの箱はしっかりいていて、ロボットを作るにはおあつらえ向きである。けけ氏は頭に思い描いているロボットにふさわしい空き箱をせっせと集める。そして、大きなサラダ油が入っていた箱の中にきれいに並べられた箱をパパッと組み合わせてロボットに変身させる、というおもちゃを作り上げた。
「ウィーン、ガシャン。ウィーン、ガッシャン。ウィーンウィーン、ガッシャーーーン」
当然音は出ないので、自分で効果音を出さなくてはならないが、それも含めて楽しいおもちゃであった。
そういえば、けけ氏の中学の時の同級生にやたらとロボットのイラストを描いているやつがいた。彼もロボットのおもちゃを買ってもらえなかったのだろうか。彼は想像の赴くままに、サイバーメタリックブルーのロボットを描き続けていた。今頃どうしているのだろうか。あれほどのロボット好きだ、ロボット博士にでもなっているのかもしれない。
こんな子ども時代を過ごしたけけ氏なので、今でもロボットネタは得意である。ネタとしてウィーンガシャンと変形するロボットを使うことは少なくない。侍をロボットに変身させてしまったり、ケンケンパロボなんてのも作ってみた。主人公が音符♪とやり合った挙句に巨大なロボットに変身してしまう、そんな漫画を描いたこともあった。謎の生命体に腕を食いちぎられて義手になってしまったヒーローの話はコントに使った。ルーク・スカイウォーカーのように手がウィーン、ガシャンと動く。また、ロボットではないが、大きなプラズマテレビをガシャンガシャンと小さくまとめてポケットに収納してしまうというコントまで作った。ここまで来るともはやロボットマニアと言ってもいいかもしれない。創作で行き詰まったときにはロボットを出せ、は今のところけけ氏の奥の手になっている。まぁ、いつまで続くかはわからないけれど。
明日までに仕上げなくてはならない台本を書きながら、ふと部屋の片隅に置いてあるいくつかの空き箱に目が止まり、かつて作った空き箱ロボのとこを思いだした。
「合体ロボか、懐かしいや。空き箱ロボットを作ってよく遊んだよな」
ロボットのことを考えながら日本語学校のコントの台本を書いていたので、出席確認の返事を「はいっ!」ではなく
「ウィーン、ガシャーン!!」
にしてしまっていた。おやおやいけない。書き直さなければ…。
「お!ひらめいたぞ」
見た目は人間なんだが中身はサイボーグ。スウェットしか着ない。普段は部屋に引きこもりゲームばかりやっているが、実は正義の味方。近所の子どもたちからはスウェットマンと呼ばれている。そこへ悪の提督ゴディバ将軍がやってきて…。お、あそこに見えるのはロボットに変形した金閣寺!
俄然こっちのストーリーの方が面白そうだ。けけ氏は書きかけの台本を放り投げてスウェットマンの話を書き始めた。
ロボットネタは鉄板だ。ロボットだけに、な。
出典
こばなしけんたろう 砂場の少年について
こばなしけんたろう セルフポートレートワールド
KKTV#3 ご存知!擬音侍小野的兵衛
KKTV#4 いろいろなケンケンパ
P+ 漫画さん
TEXT 同音異議の交錯
小林賢太郎テレビ#4 お題コント「畳」
零の箱式 日本語学校フランス編
カジャラ#4 在宅超人スウェットマン
The SPOT ひみつぼ